パニック発作と予期不安

パニック症(もしくはパニック障害)は,10分以内にピークを迎えるパニック発作を繰り返すことと,そうしたパニック発作への恐れを特徴とする不安症(もしくは不安障害)です。パニック発作というのは,過呼吸など突然の激しい反応のことで,実は「過呼吸を起こすけれど,パニック症ではない人」がおられます(実はこれは重要なポイント)。 「パニック発作が起こったらどうしよう?」「また発作が起こるんではないか?」と不安になることを「予期不安」と言って,予期不安はパニック症のキーワードです。 パニック発作も予期不安もどちらもパニックに関連した不安や恐怖なので一見同じような不安に思えますが両者は違いがあります。まず,前者が差し迫った恐怖であるのに対し,後者はこれからどうなってしまうだろうという不安です。つまり,パニック発作という恐怖は現在志向ですが,予期不安は未来志向なのです。 別な言い方をすると,パニック発作は”恐怖そのもの”であり,予期不安は”恐怖に対する恐怖”であると表現することができます。 この違いはパニックに苦しむ人にとっては重要な意味があって,パニック症が問題

動機づけ面接治療整合性尺度(MITI)の研修会を受講しました

動機づけ面接(MI)とは,元々,アルコール依存症を抱える人との効果的な面接スタイルとして開発,体系化されたもので,「変わりたい,でも変われない」というようなその人のなかでのアンビバレンスに焦点を当てた方法です。現在はアルコールの問題以外にも様々な領域で使われていて,「やりたい/やめたいけど、なかなか踏み出せない/やめられない」といったパターン全般に効果的な方法です。 動機づけ面接治療整合性尺度(MITI)とは,カウンセラーの会話のスタイルが動機づけ面接になっているかどうかを評価するためのコーディング・システムです。MITIでは、動機づけ面接を行った面談から20分を切り出して、その音声データのうちカウンセラーの発言に焦点を当てて評価します。逐語を使いながらも検討しますが、発話の字面よりも音声データとしての印象の方を重視するのがポイントとのことです。 MITIが存在することの良いところのひとつは,動機づけ面接を普段しているつもりでも「私がやっていることって動機づけ面接になっているんだろうか?」と自信がないというか悩んでいる臨床家にとって数値として,ど

恐怖症・不安障害のメカニズム(古典的条件づけによる説明)

他の人からするとどうということのない刺激(場所・人物・モノ・生き物)が怖くてたまらないという恐怖や不安は,人類にとってごくありふれた現象です。 学習心理学もしくは行動療法という心理学の立場から見ると,この恐怖症・不安障害のメカニズムは比較的シンプルに捉えることができます。 これは古典的なモデルですが,まず,恐怖症というもの自体は古典的条件づけ(もしくはレンスポンデント条件づけ)という現象で説明することが可能です。 古典的条件づけとは,心理学を習ったことがある人なら誰でも知っている「パブロフの条件づけ」の話です。 *以下,わかりやすさのために話は若干デフォルメしています。 パブロフという人物が,自分が研究用に飼育している犬に餌(肉片)をやるわけですが,パブロフはふと「あること」に気がつきました。それは,パブロフが餌を与えても与えなくても,その犬はパブロフが近づいてくる足音を聞くだけで,あたかも餌が目の前に提示されたかのように唾液を垂らしていたのです。 ここで何が起こったのかを整理してみましょう。 まず,肉片が提示されて,唾液を垂らすことは動物として

躁(そう)状態は何が辛いのか!?

うつ病という病気については一般にもよく知られるようになりましたが,うつ病のような落ち込み状態や楽しさが無くなった状態が続いた後,今度は,快晴がやってきたかのように,妙に気分が高まり活動的になってくる,というメンタルの問題も存在します。 これは「躁うつ病」もしくは「双極性障害」と呼ばれます。 双極性障害の特徴は,「うつ」状態の時期だけでなく「躁(そう)」状態の時期もあることにあります。そう状態とは,気分が高揚したり,開放的になったりして,活力に溢れ活動的になった状態です。また,怒りやすくなって人と口論したり,トラブルを起こすといったこともそう状態には含まれます。 そう状態になった人は,「自分はすごい人間なんだ!」「今の自分にならなんでもやれる気がする!」といった自分自身に対する少々過剰な確信をもったりします。 また,「寝ているなんてもったいない!」と睡眠時間を削って何かに打ち込んだり,相手からすると妙によく喋るようになったりします。注意が散漫になってミスも増えるかもしれません。また,いてもたってもいられず新しいことに次々チャレンジしたり,人の集まり

“意義のある人生"の実現を目指す心理療法:ACT

認知行動的アプローチがどのようなものかについては以前に書きましたが,認知行動的アプローチはいわゆる科学的であることを大きな柱においてきました。 科学的であろうとすることは,科学では扱いにくいテーマはあえて避けることが起こります。 科学では扱いにくいテーマとは一体なんでしょうか? それは,"生きることの意味"とか,「私」とは誰なのかとか,スピリチュアリティといったテーマです。 こうしたテーマは,それまで認知行動的アプローチ以外の心理療法ではむしろ積極的に扱われる傾向にありました。 しかし,認知行動的アプローチの中でも徐々にそういった難しいテーマを,むしろ積極的に扱っていこうという流れが生まれました。 そうした新たな挑戦を始めた認知行動療法は,「文脈的認知行動療法」や「第三世代の行動療法」と呼ばれます。 この文脈的認知行動療法の代表が「アクセプタンス&コミットメント・セラピー」です。名前が長いので「ACT」と略して書いて「アクト」と読みます。 ACTを用いたカウンセリングでは,相談に訪れた方(一般的に,クライエントと呼びます)に 「どんな人生を歩まれ

心理療法のなかでの認知行動的アプローチの特徴

心理療法には非常にたくさんの種類があります。 そこで,心理療法はよく,精神分析やユング心理学を代表とする力動的アプローチ,来談者中心療法やフォーカシングを代表とする人間主義的アプローチ,そして,行動療法,認知療法,認知行動療法を代表とする認知行動的アプローチの3つの大きな流れがあると言われます。 認知行動的アプローチの特徴は,認知理論や行動理論といった理論もあるものの,どちらかというと理論を擁護するというよりも,実証的なデータから理論を見直すことに積極的なアプローチです。 認知行動的アプローチでは,さまざまな仮説を立てて,実際に実験をしてそれを確認したり,質問紙調査というアンケート形式の心理検査に回答してもらうことで統計的に仮説となるモデルを検証したりといった地道な作業を繰り返して発展してきました。 たとえば,「うつ病を抱える人では考え方がネガティブになるという傾向がある」という仮説があるとします。そんなときは,実際にうつ病の患者さんのグループとそうではない一般の人のグループとを対象に考え方についての質問紙に回答してもらいます。その質問紙の得点に

強迫症(強迫性障害)とは?

強迫症とは,強迫観念と強迫行為が特徴的な問題です。 強迫観念とは 「自分がこんなこと(不適切なこと)をしてしまうのでは!?」「~(病気や問題など)になってしまう!」といった繰り返し頭の中にやってくる考えだったり,「こう(不快を取り払うような行動を)しなくては!」といった衝動,不快だったり怖い映像的なイメージ,のことをいいます。 そんな考えやイメージが湧いてきたら,怖くなったり,不安になるのが自然なことでしょう。 そして, 強迫行為とは 強迫観念に促されるようにして,しばしば本当はやりたくもないのに,繰り返し繰り返し行ってしまう行動のことです。 何かの儀式のように,具体的な何かを生み出したり,解決するでもなく,他の人から見ると不可思議に見える行動でも何度もなんども繰り返してしまったりします。 「うまくいかない」と感じた時にはさらに同じ動作を繰り返すこともあり,ついに「これだ!(まさにぴったり)」という感覚を得るまでやめられないかもしれません。これはご本人にとってはなかなか辛いことです。 ちなみに,強迫行為は必ずしも目に見える動作とは限らず,頭の中で