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とある女性とカップ。そしてジョアンの調べ。

ある晴れた秋の木曜日のことだった。その週は展示会もなにもなくて、常設のいつも通りの営業だった。11時にオープンをして数時間、大してお客さんも来ず、気が付けば2時を過ぎていたと思う。 まるで焚火の薪を絶やすことのないように、いつも店内の音楽はできるだけ途切れないようにしているのだが、ふと気が付けば、音楽が鳴り止んでいた。カウンターでぼんやりと考え事でもしていたのだろう。その足音にも気が付かなかった。うちの店は古いビルの3Fにあるのだが、ごくたまにその階段をあがる足音さえ聞こえないときがある。いや、というか、正確に言うと、足音のないひと、というのがこの世にはきちんと存在するのだ。そのことを僕はこの店を始めてから初めて知った。 そんな足音のないひとりの女性が、気が付くと知らないうちに静かに店内に入ってきて、ひとりで静かに器を見ていた。 僕は少しきまりが悪くなって小さく会釈をし、さて、この無音から果たしてどんな音楽をかければいいか、と一瞬悩んでいた。そうしながらもその女性をちらっと横目に見ると、なんとなく30後半、もしかしたら40を過ぎているくらい。赤、

ペンケースの思い出

3歳になるうちの下の子が、気が付けばとにかく好きな女の子の話しかしなくて困っている。いや、困っちゃいないけど、ちょっとおののいている。保育園から帰る車の中でもぱぽちゃん(好きな子の愛称)の話しかしない。 「きょうぱぽちゃんとけんかしたんだー。でもそのあとでなかなおりしたんだよ」 「きょうぱぽちゃんおやすみだったー。かなしかったんだよなぁ」 「きょうはぱぽちゃんのとなりでごはんをたべたんだよ。たのしかったなぁ」 とかなんとか。こちらは「ふうん」とか「そうなんだー」としか、もはや言えない。自分は保育園のころ、そんなに好きな子の話ばかりしていたんだろうか。たぶんそんなことはないと思うのだが。どちらの親に似たのか、どうも彼は将来、肉食系になりそうな気配がどことなくあり、もうちょっと大きくなったらば早いうちから性教育をした方がいいよね、という話を案外真面目に奥さんとしているところだ。 いっぽう、5歳の上の子はそんなことなくて、まぁ彼はもとから保育園の話とかを親にするのがあまり好きではないせいもあるのだけど、とにかく彼の場合はたまに好きな子の話は出てくるが、