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吹奏楽の三点吊りマイク収録の音割れトラブルをリカヴァリー

最終更新: 11月9日

日常的にお世話になっている、映像制作会社から「音割れトラブル」音源の修復依頼がありました。10年前ならほぼ修復不可能とされていた録音時の「音割れ」。映像がメインとはいえ音を収録する業者にとってこのミスは致命的であることはいうまでもありません。

吹奏楽定期演奏会の音声収録トラブル

 依頼された音源は学生による吹奏楽の定期演奏会。部活の引退イベント的な要素もあり記念になることから、ローカルのビデオ撮影業者に収録をお願いしている中学校・高等学校も少なくありません。

地域の公共ホールを利用しての収録。演奏の録音はホール常設の三点吊りマイクを利用するのが一般的です。ホール常設のミキサーを経由して収録業者への機材に送られ、その音声が業務用ビデオやレコーダーに録音されます。今回のトラブルはレコーダ側のゲイン(ライン/マイク)設定を間違えたことにより、3点吊りから経由した音声に音割れが起こったというケースです。

定期演奏会は吊りマイクを使用した一定以上のクオリティを期待されての収録ですから、映像業者にとっては今後の取引がなくなるかもしれない致命的なミスといえるでしょう。

音割れは治せるのか?

当サイト内のコンテンツでは、「酷い音割れは修復できない」と案内しています。例えばスマートフォンのMP3録音。一般ユーザーからの依頼も多い当サービスは、ダンスやロック系コンサートの隠し撮りなどを行った相談を受けることも多いです。最前列の巨大スピーカーの目の前でスマホ録音した「頭からお尻まで完全に割れっぱなしの音声」は最新の業務用オーディオ修復ソフトを持っても改善はできません。

ダンスミュージックの「ズンズン」というキックドラムがなるごとにひどい音割れをしている音源、結構多いです。スマートフォンや安価なICレコーダー、家庭用ビデオカメラなど、いわゆるプロ用ではない民生機による収録はおおよそ、良い結果を得ることは困難です。

ではプロ用なら大丈夫なのか?ということですが、もちろんそのクリップレベルによります。業務用のオーディオデータは基本的に非圧縮の高解像度で収録されていること、収録されているインプット(この場合はホールの三点吊りマイク)マイクの性能など、音割れしていたとしても元の音質グレードが良いということがあり、何とか改善できることもあります。下記の方法で「何もなかった」こととして納品に成功しました。

音割れした吹奏楽演奏をどのように修復したのか

izotope RX-6 「declip」

オーディオリペアの先端技術を提供する米izotope社のRX(最新バージョンRX6Advanced)。上記の映像はこちらによる音割れ改善例。当然、今回の吹奏楽の音割れ改善にはこのRXのDeclipというプラグインをメインに活用します。

①歪んでしまった音声のリペアの精度は完成度を左右するポイント 前後比較すると、「おお、すごい」となるわけですが、実際に「何事もなかったこと」のようなクオリティにするにはこれだけでは難しい。当方はDe-clickやSpectralrepairなどその他の細かな処理を加え、音声トラブルのネガティブ要素を細かく削ぎ、ベースになる3点吊りマイクからの音声素材を整えます。

実際のサンプルをここでは公開できないのですが、この①の処理でもギリギリ使える感じに仕上げることができました。個人利用する音源なら妥協レベルだと思うのですが、やはり業務収録されたプロの観点では若干ネガティブ要素が残ります。演奏ボリュームがピークレベルに達する部分で、収録に問題があった痕跡を残してしまいそうでした。そこでその他の音声素材もMIXしての対応になりました。

②カメラマイク音声のブレンド処理 メンバーの多い吹奏楽のビデオ収録は3〜5台(無人も含め)のカメラを使用されるケースが多いです。もちろん、各カメラにはカメラマイクが内臓されており、その中で使えそうな素材を選び①で修復した音声にブレンドします。

カメラマイクは素人が収録するビデオのように周囲の音を拾いやすいので、当然カメラに近い場所での拍手などが強く乗ってしまいます。ただ場所によってはホールの良い響きを捉えているマイクもあり、トラブルがない収録時でもこれらを薄くブレンドして「臨場感」を高められるケースも多い。

さほど音質クオリティを求められない案件であれば、三点吊りの修復を諦めこれらのカメラマイクをメインに利用して納品するケースもあるようです。今回は客席後方センターに配置された無人カメラの素材(モノマイク)、上手から収録しているカメラのステレオガンマイクの2つの素材を①の三点吊りマイクにブレンドしました。

③いわゆる3点吊りの音声を再現するためのミックスダウン 当方は音声修復やノイズ除去だけではなく、音楽制作そのものやミュージシャンのミックスやマスタリングを支援しております。別素材が存在することで、ミックスのテクニックを使うことで、リカバリーするための選択肢が広がりました。

3-1カメラマイク音声の基礎補正もしっかりします カメラマイクは客席のノイズを拾いやすいので、基礎的なノイズ処理などをしっかり行います。 3-2リファレンス音源との比較作業 同様ホールで(3点吊り収録された吹奏楽の音源)を参考音源として常に比較して音作りを行います 3-3ステレオイメージの再現とイコライジング カメラマイクの上手素材はステレオ、センターマイクはモノという素材を組み合わせるために、違和感ないステレオ音像を再現するのにセンターマイクを疑似ステレオ化して左に配置しています。(若干下手(L-ch)側に配置された楽器の定位が曖昧になります) 3-4リヴァーヴの付加 メインの3点吊り素材が割れてしまったため、本来綺麗に収録されるはずのホール自体の残響成分があまりありません、ここは邪道ですが音声にリヴァーブを付加することにしました。実際のホールの残響成分解析して再現される「コンボリュージョンリヴァーブ」の精度も高く、充分に使えます。リファレンス音源の響きと近い特性のものを選び、ブレンド。

上記がおおよその流れです。もちろん素材ごとにEQ処理などを加え、「何事もなかったような収録」をシミュレーションし、納品させていただきました。

演奏会の一発収録は何が起こるか分かりません。重篤なミスにお困りのビデオ業者さまやカメラマンの方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。

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